名古屋高等裁判所金沢支部 昭和33年(う)136号 判決 1960年3月17日
被告人 根岸長兵衛
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金拾万円に処する。
右罰金を完納することが出来ないときは、金千円を壱日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
原審訴訟費用中証人尾倉弘康(二回分共)、同内田吉彦(二回分共)、同石川清、同中条栄一、同山本久右衛門、同馬上免一領、同越後豊二、同山田久兵衛、同山路五左衛門(二回分共)、同白山勝栄(二回分共)、同吉本正一(二回分共)に各支給した分は、被告人の負担とする。
本件公訴事実中所得税法違反の点については、被告人は無罪。
理由
論旨第一点(所得税法違反)について。
原判決を検討すると、原審が「所得税法違反事件を審判する刑事裁判は、民事訴訟における税の再調査又は審判の請求の目的となる処分の取消又は変更を求める訴や、税務官庁の行う税の更正決定のとおり、根本的に又は総体的にその適否を決定し、新な税額を決定することを主たる目的とするものではなく、検察官の提起した公訴事実の存否及び範囲を確定し、被告人が有罪であるか無罪であるかを判断すべきものであるから、検察官の提起した公訴事実の範囲内においてその事実の存否を争うならば格別、全く公訴事実の範囲外の別個の事実を主張して争訟すべきではない。但し所論のように若し欠損があるとするならば、裁判所はこれを情状として参酌し得ることは勿論であり、当裁判所が弁護人の主張事実の立証として、これら事実についての証拠調を許可した所以も亦茲にあるのである。」云々と判示していることは所論の通りであつて、以上に依れば、一見恰も原審は「当該年度に於ける被告人の収支中に、収税官吏や検察官の知らない損失があつたとしても、情状としてこれを斟酌するは格別、これを採つて以て所得算定の基礎と為すべきでない。」旨判示しているかの如き観がないでもないけれども、しかしながら、判文の前後を通読し、仔細にその趣旨とするところを吟味すれば、原審は決して所論(前記観点と同じ)のような趣旨で、叙上の判示をしたものではなく、其の趣旨とするところは、これを要するに、「被告人、弁護人の所謂損失なるものは、売掛代金、貸金等の回収困難に陥入つたものを指称するに過ぎず、いずれも当該年度内に於て、請求権を喪失したと認められる程度の状態に立至つたものではなく、従つて、未だ以て当該年度に於ける『欠損』と認めるを得ないから、これを情状として斟酌するは格別、これを所得算定の資料とすべきでない。」と言うに在り、後記するが如く、原審、当審証拠調の結果を綜合すれば、この点に関する原審の認定は相当であつて、原判決は審判の範囲を誤解し、所得の存否を確認することを怠つたものでなく、其の理由に所論のような不備の存するものでないから、この点に関する論旨は理由がない。
論旨第四点中原判決の法令適用に誤りがあるとの論旨について。
貸金業等の取締に関する法律に所謂貸金業とは、「反覆累行の意思を以て、金員の貸付又は金員の貸借を媒介する行為」を指称し、必ずしも貸付の相手方が不特定多数の者であることを要するものでない。従つて、仮令所論の如く貸付の相手方が被告人の友人其の他縁故関係ある特定の人に限られていたとしても、それだからと言つて、被告人の本件金融行為の総てが、叙上の法律に所謂貸金業に該当しないと言うを得ない。(原審認定の貸金営業行為中当審が認定を異にした部分については、後記自判部分参照のこと)況んや、証拠を検討すれば、被告人は別段縁故関係のない人に対しても、条件の如何に依り、何時にも金融したであろうことを優に看取するに足るに於ておやである。そうして見れば、被告人の本件金融行為が、いずれも貸金業等の取締に関する法律に所謂貸金業に該当しないとの論旨は、到底これを採用するを得ない。
論旨第二点、第三点(所得税法違反)について。
弁護人は「原判決末尾添付別紙計算書記載の所得総金額内訳(ホ)の貸金利息六一〇、八六一円中には、貸金利息として計上すべきでなく、商品の販売利益として計上すべきものを、誤つて相当多額に包含している。」旨主張し、また、中条三兵衛(福井地方裁判所武生支部昭和二十七年(わ)第二三号事件……以下支部事件と略称……記録第二二二丁以下)柳瀬文四郎(同記録第三〇九丁以下)加藤誠一(同記録第二九六丁以下)宮田与右衛門(福井地方裁判所昭和二十八年(わ)第二一八号、同二十九年(わ)第二一〇号事件……以下本庁事件と略称……記録第九〇一丁以下)の、いずれも検察官に対する供述調書の記載、原審第七回公判調書中証人中条三兵衛(支部事件記録第二一四丁以下)同第八回公判調書中証人加藤誠一(同記録第二七〇丁以下)同第九回公判調書中証人柳瀬文四郎(同記録第三〇五丁以下)の各供述記載、証人加藤誠一(本庁事件記録第七〇九丁以下)同宮田与右衛門(同記録第七二三丁以下)同佐々木仲市(同記録第七九九丁以下)に対する原審各証人尋問調書中の供述記載などを綜合すれば、前記貸金利息中(1)中条三兵衛よりの分六五、九三〇円余、(2)柳瀬文四郎よりの分三、三五〇円、(3)加藤誠一よりの分二、三七四円、(4)佐々木仲市よりの分二二、八一二円余、(5)丸一製紙株式会社よりの分一、六一六円余等は、いずれも、元来、金員の消費貸借より生じた利息でなく、商品代金債務の履行として振出され又は交付された約束手形の利息であつたことを認め得ない訳でないけれども、しかしながら、前掲の各証拠をさらに仔細に検討すれば、中条三兵衛等前記商取引の相手方は、いずれも代金現金払の約旨で、被告人より商品を買入れたところ、履行期に代金を支払うことが出来なかつたため、該債務を準消費貸借契約上の債務に引直し、更改された後の元本債務に対する利息として、叙上のような金員を昭和二十五年度内に、被告人に対して、それぞれ支払つたものであり、被告人の収受した叙上の利息金は、売買契約の当初より代金債務の一部として予定されたものでなく、当該年度に於ける準消費貸借上の収益として、販売利益とは別途に受領され、処理されたものであつたことを認め得る。(斯る準消費貸借契約を締結することが、貸金業等取締に関する法律に所謂「貸金」行為に該当するか否かは別問題である。)そうして見れば前記の収入を消費貸借上の利得として、貸金利子中に算入し、商品販売利益として計上しなかつた原審の措置は必ずしも不当でなく、この一事あるの故を以て原審は事実を誤認したものと言うを得ないから、此の点に関する論旨は理由がない。弁護人は「原判決末尾添付別紙計算書記載の所得総金額内訳(ホ)貸金利息六一〇、八六一円中四五九、五九〇円は動、不動産の賃料として、福映株式会社より受領したものであつて、貸金利息でない。」旨主張するけれども、原審第三回公判調書中証人内田吉彦(支部事件記録第九〇丁以下)同尾倉弘康(同記録第一〇四丁以下)の各供述記載、内田吉彦(同記録第一〇九丁以下、第一一四丁以下)尾倉弘康(同記録第一二六丁以下)の検察官に対する供述調書の各記載、被告人の検察官に対する昭和二十七年五月八日付供述調書の記載(同記録第三五九丁以下)公証人白井已之吉作成特第参千百拾四号、第参千百拾五号公正証書謄本の記載等に依れば、被告人は動、不動産を福映株式会社より買受け、該物件を同会社に改めて賃貸する形式を取り、その実は、前記物件を所謂売渡担保として、同会社に対し金員を貸付け、賃料名義を以て利息を徴収したものであつたことを優に看取するに足るから、此の点に関する論旨もその理由がない。なお、論旨援用に係る内田吉彦、吉本正一、尾倉弘康に対する大蔵事務官作成質問顛末書は、これを証拠とするに付き、弁護人の同意を得られなかつたので、原審第二回公判期日に於て却下されたものであり、従つて適法な証拠調を経由した資料でなく、(本庁事件記録第二五丁裏、第二六丁参照)また、掃部武雄に対する大蔵事務官作成質問顛末書(同記録第一〇一五丁以下)には、所論のような計算書が添付されていないので、これらの資料に立脚した論旨はいずれも採用の限りでない。弁護人は「原審は紙販売所得(原判決添付別紙計算書記載、総所得金額内訳(ニ)参照)を認定するに当り、税務官吏が推定計算に依つて算出した数字を殆んど其のまま採用しているが、更正決定のための行政措置ならば兎も角、いやしくも裁判所が事実を認定するに当つてはこのような推定計算を根拠とすべきでない。」旨主張する。もとより、裁判所が事実を認定するについては、適法な証拠調手続を経由した資料によつてのみ、これを為すべく、然らざる資料より、事実の存否をみだりに臆測するを得ないことは言う迄もないが、しかしながら、証拠調を経由した資料そのものより、直接に犯罪事実を認定することが出来ない場合、かかる資料に依つて認定し得た諸事実を綜合し、その結果に基いて、さらに(間接に)犯罪事実を推認することは、毫も法の禁止するところでない。従つて、原審が、たとえ、税務官吏の推計し、検察官の主張した数字を是認したとしても、それが適法な証拠調を経由した資料を綜合して認定した諸般の状況より、さらに(間接に)認定したものであることを看取し得る以上、その当否は兎も角、少くとも原審の訴訟手続には、所論のような法令違背の存するものではないから、論旨は理由がない。弁護人は「原審認定紙販売所得額より原料及び製品の仕入原価として金二、〇四四、九六〇円を控除すべきである。」旨主張するけれども、河村[金心]男(本庁事件記録第一〇七一丁以下)大野房子(同記録第一〇六七丁以下)久保田春吉(同記録第一〇六〇丁以下)久保田実(同記録第一〇五五丁以下、第一〇五七丁以下)宮田与右衛門(同記録第九〇一丁以下)のいずれも検察官に対する供述調書の記載、河村[金心]男に対する大蔵事務官作成質問顛末書の記載(同記録第一〇七六丁以下)河村[金心]男作成上申書の記載(同記録第一〇八二丁以下)証人河村[金心]男(同記録第二四八丁以下)同久保田実(同記録第二九〇丁以下、同久保田春吉(同記録第三〇一丁以下)同大野房子(同記録第二四〇丁以下)同大野勝七(同記録第一一六六丁以下)同宮田与右衛門(同記録第七二三丁以下)に対する原審各証人尋問調書中の供述記載等を綜合すれば、所論の原料及び製品の仕入代金は被告人個人の手許より相手方に支払われたものでなく、中部製紙工業株式会社より相手方に支払われたものと認めるのを至当とし、従つて、被告人の所得より該金額を控除すべきでないと考えられるから、比の点に関する論旨もその理由がない。次に弁護人は「被告人の紙販売代金債権のうち、昭和二十五年度内に於て、取立不能に帰したものが四、四六四、九八七円余ありこれ等の欠損を所得より控除するときは、被告人の昭和二十五年度に於ける所得は、全く存在しないことに帰着する。」旨主張するので、その当否を審究するに、証人小野一弘(本庁事件記録第五六四丁以下)同柴田三樹(同記録第一四二八丁以下)同小川秀吉(同記録わ一五九〇丁以下)同青木正亘(同記録第一六一四丁以下)同尾関祐一(同記録第一六〇六丁以下)同吉田正雄(同記録第一六〇〇丁以下)に対する原審各証人尋問調書の記載、証人木村隆之助(同記録第一八六一丁以下)同竹内四郎(同記録第一七九九丁以下)同伴野清一(同記録第一九一九丁以下)に対する原審受託裁判官の各証人尋問調書中の供述記載、証人宇佐美泰平(同記録第一六四八丁以下)同為沢一志(同記録第一六五八丁以下)のいずれも原審第二十回公判調書中の供述記載、証人為沢一志の原審第二十一回公判調書中の供述記載(同記録第一七一七丁以下)証人尾崎巌(同記録第一七四六丁以下)同中間庭嘉蔵(同記録第一七六九丁以下)同堀口藤蔵(同記録第一八一二丁以下)同牧野裕平(同記録第一八九三丁以下)に対する原審受託裁判官の各証人尋問調書中の供述記載、当審受命裁判官の証人青木正亘、同牧野裕平、同木村隆之助、同小川秀吉、同吉田正雄、同小野一弘、同尾関祐一、同杉山孝、同柴田三樹に対する各証人尋問調書の記載、当審第五回公判調書中証人中間庭嘉蔵、同伴野清一、同為沢一志の各供述記載、当審第六回公判調書中証人堀口藤蔵の供述記載、当審第七回公判調書中証人宇佐美泰平の供述記載等を綜合するときは、(一)統制解除の影響を受け、昭和二十四年後半期より昭和二十五年前半期に亘り、紙価が暴落したため、製紙業者、紙類の卸小売業者中、倒産する者が続出したこと、(二)被告人の取引先である中部洋紙株式会社、スガキ印刷株式会社(代表者いずれも柴田三樹)尾関裕一、為沢一志、小笠原清市、双葉紙業株式会社(代表者宮川正福)株式会社宇佐美泰平商店(代表者宇佐美泰平)南信紙業株式会社(代表者牧野裕平)尾崎巌、中間庭嘉蔵、堀口藤蔵、伴野清一等が、いずれも倒産に瀕する状態となり、各々がその営業を停止し、債権者に依つて財産を整理されるに至つたこと(三)これ等の者に対する被告人の売掛代金総額は約五百万円余であつたが、整理の結果、極めて少額の支払を受けたのみで、その余の四百数十万円は、所謂焦付きとして未払のまま残つたことを認め得る。ところで、売掛代金が回収困難に陥入つたからと言つて、それ故に直ちにこれを欠損と認むべきでなく、これを以て「欠損」と認め得るためには、少くとも債権抛棄の意思表示が為されたか、又は債務者が支払不能の状態に陥入つたことを要するは言う迄もなく、しかるに前記の各証拠を検討しても、叙上の如く各債務者の営業停止に依る代金回収困難の状況を看取し得るに止まり、未だ以て被告人がこれ等の債務者に対し、昭和二十五年度内に於て、債権の抛棄をしたことも認め得なければ、また債務者が同年度内に於て、全く支払不能の状態に陥入つたことも認め得ないから、従つて、この程度の状況を以てしては、被告人の昭和二十五年度の収支に対し、所論の金額を「欠損」(事業経費)として計上するのは、早計であるとの譏りを免れない。そうだとすると、この点に関する論旨もその理由なとしてこれを排斥しなければならない。
しかしながら前記論旨第二、第三を斟酌し尚第五点中「被告人は収入よりも多くの欠損を生じた自覚があつたので武生税務署にもその事実を述べて問合わせ、昭和二十四年末以来の紙業界の不況と倒産者相次ぐ実情のみ考えて欠損に心を奪われ昭和二十五年度の申告をしなかつたもので逋脱の意思はなかつたものである」との論旨につき案ずるに、原審並に当審証拠調の全結果を綜合すれば、(一)前掲各債務者等は、いずれも、昭和二十五年度中に営業を停止し、破産に近い状態に立至つたものであること、(二)代金回収の困難さが当時より相当程度に予見されたこと、(三)その後今日に至るも該債権中その一部の弁済を受けたものすらなく、現在、全く回収不能の状態にあること、(四)被告人は税法上の知識に乏しく、所謂「欠損」を認定する標準について、明確な認識を持つていなかつたことなどを看取し得べく、以上の事実よりこれを観れば、被告人は所得があることを知りながら、税金を逋脱する意図の下に、故意に申告を懈怠したものと言うよりは、寧ろ税理事務に不案内であつた結果、回収困難の売掛代金を、同年度内に確定した「欠損」であると思惟し、同年度の所得として申告すべきものがないと誤解した結果、所得の申告をなさなかつたに外ならないと認めるのを相当とする。尤も、被告人は平素より架空名義で預金をし、配当を受け、又は取引の相手方と通謀の上、或取引を記帳しなかつたり、極めて芳しからざる行為に及んでいたことを証拠に依つて窺知し得ない訳でないが、これ等の行為と本件不申告との間には、手段、結果の関係の存在は認められず、また、被告人は本件摘発後、取調官より帳簿の提出を求められた際、捜査に対し非協力的な態度を示したことを認め得ない訳でないが、被疑者の立場に置かれた者の心理として、必ずしもこれを強くとがむべきでなく、これあるの故を以て被告人に租税逋脱の犯意があつたものと即断することを得ない。そうして見れば、被告人の本件所得税法違反の所為は犯意の証明が不十分であつて、結局、本件所得税法違反の公訴事実は犯罪の証明がないことに帰着するから、これと異なる見解に出た原判決は、事実を誤認したものと言わざるを得ず、右の誤りは判決に影響すること勿論であるから、原判決は破棄を免れない。
よつてその余の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条に従い原判決を破棄した上、同法第四百条但書に則り、次の通り判決する。
(罪となるべき事実)
被告人は貸金業者でないのに、法定の除外理由なくして
(一) 昭和二十五年三月頃福井県武生市幸町三十番地松竹劇場内で、尾倉弘康に対し、福井市佐佳枝中町四十一番地の十宅地十一坪七合七勺外三筆及び敦賀市大島百四十六番地の十五宅地五十六坪九合二勺外三筆を根抵当とし、金八十万円を同人に貸付け、昭和二十七年一月二十九日迄に利子合計十七万八百八十円及び同年二月十八日迄に十二回に亘り、謝礼金名下に、合計金十八万円位を受領し、
(二) 昭和二十五年九月二十五日頃福井市佐佳枝上町四十八番地白井公証役場に於て、福映株式会社社長尾倉弘康の依頼に基き、同会社所有の同市佐佳枝中町所在日本劇場建物建坪九十三坪及び映写機二台外設備品一式を売渡担保とし、期限を昭和二十七年九月二十日とし、前記会社に金二百五十万円を貸付け、昭和二十六年十月三十一日迄の間に賃料名下に利子合計八十万四千円位、昭和二十六年十一月三十日迄の間に謝礼名下に金二十一万六千円位を受領し、
(三) 昭和二十五年九月二十五日頃前記松竹劇場内に於て、右尾倉弘康の依頼に基き、日歩五銭無担保の約旨で金八十八万円を前記会社に貸付け、昭和二十六年十月三十一日迄に、利子合計金二十二万五千円位を受領し、
(四) 昭和二十五年十月三十一日頃から同二十六年十一月五日頃迄の間、四十四回に亘り、肩書被告人方に於て福井油脂化学工業株式会社専務取締役掃部武雄から手形割引の方法に依る金融方の依頼を受け、同人が振出した約束手形又は同人の裏書ある約束手形に対し、日歩六銭の割引料及び月三分又は六分の利子並に約束手形一通につき百円の取立料を徴収し、約束手形合計四十四通、額面六百八十二万二千六百四円を同会社に貸付け、割引料合計金二十四万千二百二十八円余及び利子合計金十六万四千九十七円余を受領し、
(五) 昭和二十六年三月二十六日頃から同年十月二十八日頃迄の間二十二回に亘り、前同所に於て、大興製紙株式会社代表取締役山本久右衛門から前同様の依頼を受け、前同様の約束手形に対し、日歩五銭又は六銭の割引料及び約束手形一通に付百円の取立料を徴収し、約束手形合計二十二通、額面合計金千五十五万二千百十九円を同会社に貸付け、割引料合計金三十四万九千七百四十一円余を受領し、
(六) 昭和二十六年九月二十七日頃及び同年十一月七日頃の二回に亘り、前同所に於て、山路五左衛門から前同様の依頼を受け、前同様の約束手形に対し、日歩五銭の割引料及び約束手形一通につき百円の取立料を徴収し、約束手形二通額面合計金二十万円を同人に貸付け、割引料合計金五千四百七十五円を受領し、
(七) 昭和二十五年九月十三日頃から同二十六年三月七日頃迄の間六回に亘り、前同所に於て、越後豊二から前同様の依頼を受け、前同様の約束手形に対し、日歩五銭又は六銭の割引料及び約束手形一通につき百円の取立料を徴収し、約束手形六通、額面合計金七十万五百五十円を同人に貸付け、割引料合計金一万三千八百二十三円を受領し、
(八) 昭和二十六年八月末日頃前同所に於て、山田久兵衛から前同様の依頼を受け前同様の約束手形に対し、日歩五銭の割引料及び約束手形一通につき百円の取立料を徴収し、約束手形一通額面金三十万円を同人に貸付け、割引料九千円を受領し以て貸金業を行つたものである。
(証拠)(略)
(法令の適用)
法律を適用すると裁告人の判示所為は出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律附則第十一項、貸金業等の取締に関する法律第五条、第十八条第一号、罰金等臨時措置法第二条に該当するので(包括一罪)所定刑中罰金刑を選択し、所定金額以下に於て被告人を罰金拾万円に処すべく、右罰金を完納することが出来ないときは刑法第十八条に依り、金千円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置すべく、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則り、被告人をして訴訟費用中主文掲記の分の負担を為さしむべきものとする。
本件公訴事実中所得税法違反の点は、既に説明した通り犯罪の証明がないから刑事訴訟法第三百三十六条に則り、主文に於て無罪の言渡を為すべきものとする。
なお被告人に対する本件貸金業等取締に関する法律違反の公訴事実中、中条三兵衛、加藤誠一、柳瀬文四郎に対する貸付の分(昭和二十七年五月二十日附起訴状の公訴事実第四、第七、第八)については、原審並に当審証拠調の結果に徴すれば、これ等の貸借関係は、元来商品の売買代金であつたものでありいずれも被告人の業とする紙類の販売に附随して為された行為であつて、被告人の営む貸金業の内容を構成する行為ではなかつたことを看取し得べく、(商品代金債権を準消費貸借の目的に切替えたものであることは、既に述べた通りであるが、貸金業等の取締に関する法律第二条第一項第三号の趣旨に鑑みれば、斯る行為は、同法の規制する金員の貸付行為に該当しないと解するのを至当とする。)従つて、これ等の貸借関係に関する限り、犯罪の証明がないことに帰着するが、判示認定に係る貸金業等の取締に関する法律第五条、第十八条第一号違反の罪の一部として起訴されたものであるから、特に主文に於て無罪の言渡をしない。
よつて主文の通り判決する。
(裁判官 山田義盛 沢田哲夫 辻三雄)